第 一 種 驛 蕎 麦 の 諸 形 態




 驛蕎麦は、ホーム上で風情を賣つてゐる譯ではない。忙しい、腹を空かした大衆に、安い料金で其の食欲を満たすといふ社會的使命を帯びてゐるといへやう。しかも其れは獨立採算のビジネスでもある。利潤の追求は、健全な驛蕎麦經營のもうひとつの命題である。驛蕎麦が最大限の營業成果を求めるならば、味、價格の他に店舗施設に着目しなければならない。そこで小生は全ての驛の蕎麦屋が持つてゐる暗い一面に着目した。
 其の一面とは、營業できない面、つまり調理用のスペースに割かれる物理的な面である。四角四面の驛蕎麦屋に於いて、最大三面迄を營業スペースに使用出來るが、必ず一面は調理場になつてしまふのである。
調理場をどの一面に置くかといふ工夫は、第一種驛蕎麦の形態に次に見られるやうな、樣々なヴアリヱーシヨンを与へてゐる。


 ラテラル系


 列車の進行方向の面に垂直に調理場を設ける形態である。店の正門を調理場の対面に設けるのが普通で、この正門が驛の中心を向いてゐるか、外を向いてゐるかなどでも相違が見られる。


 ロンギツーデナル系

 ホーム側面方向に鉛直な調理場を設ける系統である。正門を調理場對面に設けると列車から良く見えるので通過客や、到着客に強烈なアピールを行ふ事ができる。しかし逆に調理場の面は死ぬ事になる。つまり一般的にこの形態は島式ホームには適さない。


 ケイヴド系

 調理場の位置を問題としない系統である。店全体が驛壁に埋めこまれたやうな形態なので、營業スペースはもともと一面に限られてゐる。しかし改札付近にある事が多く、繁盛もしてゐるやうだ。便所がすぐ近くにあるのもこの系統には多い。


 アンダーステア亜系

 跨線橋の階段の真下に張り付いた様式である。調理場の位置はほぼ全てがラテラル系に屬するが、階段下の店を亜系統として獨立せしめた。
亜系統であるのでロンギツーデナルかラテラルであるかは系統名に先立つて附す事としたい。


 上記のやうに、調理場をホームのどの場所に置くかによつて四大系統の分類を試みたが、更に次のやうな型分類を樂しむ事も出來る。つまり、店そのものの在り樣を見るやり方である。この系型式分類を使ひ分ければ、大概の驛蕎麦の營業形態を特定する事ができやう。

  • オープン型
 客は外で立つて喰ふ、文字通り風に吹かれて蕎麦を喰へるやうな形態を指す。この樣式の店では、車内持ち込み容噐を準備していゐる事が多く、これぞ驛蕎麦といふ感が強い。
カウンターの数も樣式特定には重要だから、附加を忘れてはならない。

  • インドア型 或いは クローズド型
 店を壁で覆つた形態。エアコンを效かせる事が出來る他、混んだ場合でも線路に落ちる心配が無い。新幹線の高級驛蕎麦もこの形態である。インドア型はカウンターが内壁に沿つて設置されてゐればヲールサイドカウンター式、おばちやんの目の前で喰ふのはフロントカウンター式と細分したい。