丼 鉢 入 門




【丼鉢とは何か】

 丼鉢は、「丼」と「鉢」の二つの語から成る言葉である。「丼」は江戸時代の職人の前掛けの隠しを意味してゐた。職人達は自己の賣上げでも何でも「丼」に入れたので、大雑把な計算を「丼勘定」等とも云ふ。
 一方「鉢」は元々サンスクリツト語で、髑髏の意であつたが、佛教僧侶の托鉢などでお馴染みの底の深い食噐を意味するやうになつた。日本では、何でも入つた飯が「丼飯」であり、その食噐が「丼鉢」となつたのだらう。今日では、これが變じて「丼」に「鉢」の意味も附加されるのである。

【蕎麦の丼鉢】

 液体と固体の食品を同時に喰ふスタイルは世界的にも珍しく無いが、液体を直接食噐から飲むと云ふのは、日本丼鉢の最大の特徴である。東亜細亜各國でソツプを戴く場合を比較してみると、朝鮮民族は銀匙を使ひ中華民族は蓮華を用ゐる。そして食噐を手で持つ事は無作法とされる。
 日本ではあの大きさの丼鉢を口へ持つていつて豪快に飲む。匙で掬つたら蕎麦つゆは不味いだらう。だから手に馴染む事が丼鉢には要求される。良い食噐は、形の奇抜さよりも使ひ易さと云ふ点が重要である。

【丼鉢の形状とその類型】

  丼鉢は口廣鉢と底深鉢の二種類に大別されやうが、他に「椀」や「皿鉢」も蕎麦に利用される。尚、用語に就いては小生の造語であるから、公式な場で乱用すると莫迦にされるかも知れない。

◆ 口廣鉢 ◆


 全國的に見られる口廣鉢である。この形状のものは、丼物と呼ばれる飯類には滅多に使はれない。言はば麺類専門の丼鉢である。口の部分が反り返つた形状や、そのまま切れ上がつた鉢もある。

◆ 底深鉢 ◆


 饂飩鉢と呼ばれる事もある深鉢である。飯類に利用される事も多く、口の周辺が膨らんでゐるものもあるが、麺類では普通の深鉢が一般的である。


◆ その他 ◆

 左図は深鉢のやうに見えるが合鹿椀と云ふ大椀である。木製食噐やそれをイメーヂした丼鉢で、東北地方で見る事が出來る。
一方、右図は大皿鉢と見做す。皿と鉢の中間的存在で、手に持つ事は適さないやうに思へる。川崎驛小竹林はこのタイプである。




文中の敬称は略させて頂きました。
新事實を御存知の方は小生まで一報願ひます。